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Research & Initiatives

現在までの研究の概要

奥橋研究室では白血病の分子病態を解明し、その検査法および治療法を開発する研究を主に行っています。

 

1. 白血病の増殖に関与するシグナル伝達系の分子機序解明に関する研究

白血病細胞の増殖に関与するNotchシグナルを阻害するGSIによって増殖促進が認められた細胞株のJurkatにおいてGSIが増殖促進効果を及ぼす分子機序について解析した。この研究から、JurkatでNOTCHタンパクが増加して細胞増殖が促進するのはPTEN遺伝子の欠損が一因であることが示唆された。また、白血病の増殖を制御するWnt、Hedgehogシグナルの分子機序を解明し、白血病幹細胞の分子病態の一端を明らかにすることができた。

 

2.  白血病細胞におけるNOTCH遺伝子発現ノックダウンが及ぼす作用に関する研究

白血病細胞におけるNOTCH遺伝子の発現抑制が細胞増殖とmTORシグナル系へ及ぼす効果について研究を行い、Notch1だけでなくNotch2もTリンパ芽球性白血病の増殖に関与すること、一部の白血病細胞においてNotchシグナルの下流にmTORシグナルが存在している可能性を見出し、英文論文として報告した。

 

3.  白血病におけるNotchシグナル阻害剤の効果に関する研究

白血病細胞の増殖に関与するNotch蛋白に焦点を当て、その活性化を阻害するGSIの、細胞増殖に対する作用を調べ、GSIが白血病の分子標的薬になり得るかを検討した。その結果、多くの細胞株でGSIによってアポトーシスを介した細胞増殖抑制をきたすことを見出した。また、一部の細胞株ではGSIによって細胞増殖を促進するという結果を得た。これはGSIによる白血病細胞の増殖の多様性を示唆するものである。さらに、GSIが一部の赤白血病細胞を赤芽球様に分化誘導する可能性を見出し、英文論文として報告した。このことが明らかになれば、GSIが赤白血病細胞に対する分化誘導療法に用いることが出来得る。

 

4.  白血病の増殖における偽遺伝子PTENP1の機能と細胞特性の解明とその新規病態検査法の開発

これまでの研究の過程でPTENの偽遺伝子であるPTENP1が白血病の増殖および細胞周期の調節に関与している可能性を見出した(下図)。偽遺伝子とは、機能遺伝子の塩基配列と類似しているが、機能を有していないと考えられているDNA領域のことである。しかし、この度得られた結果は従来の定説とは異なる新たな知見であり、ゲノム医療の発展に寄与する重要な知見に成り得る可能性があり、現在解析を続けている。

 

5.  白血病の増殖におけるフードファクターの効果とその分子機序の解明

本研究はがん細胞の増殖を抑制する食品因子(フードファクター)の探求とその詳細な作用機序を解明することで、新規病態検査法を開発することを目的とする。世界的に報告例が少ない緑茶の成分であるカテキンと大豆の成分であるダイゼインとゲニステインを用いて、白血病細胞の増殖における効果を明らかにするとともに、これらのフードファクターが作用する遺伝子群を解明し、白血病に有効な検査法を開発する。本研究結果より、健康増進、がん予防、がん治療への応用が期待できるだけでなく、将来の抗がん剤の効果を予測するコンパニオン検査への応用やがんゲノムシーケンス診断の新たなバイオマーカー候補となる遺伝子の発見が期待できる。

 

6.   白血病細胞におけるClostridioides difficile培養ろ過液による細胞毒性機序の解明(本学教員との共同研究)

Clostridioides difficile は、抗菌薬関連下痢症や偽膜性大腸炎などの原因菌であり、3 種類の毒素(TcdA、TcdB および TCD)の関与が認識されているが、その作用機序は不明な点が多い。本研究では、これらの毒素を産生する株を供試菌株として、ヒト由来急性 T リンパ芽球性白血病細胞 KOPT-K1に対する細胞毒性の有無および作用機序の解明を行った。その結果、細胞毒性の機序は、アポトーシスよりもネクローシスによる細胞死が優勢であることが明らかとなり、KOPT-K1は、C. difficle毒素の作用機序の解明に有用であることが示唆された。

 

7.  AIを用いた白血病細胞の形態変化の判定(本学教員との共同研究)

現在、白血病細胞の接着性とその乖離条件の検討実験を行っており、その判定にAIによる画像判定を用いた研究を行っている。細胞集塊が多く見られる白血病細胞は予後不良であることが多く、この集塊を形成するメカニズムとその検査法の開発を目指した研究を行っている。さらに、細胞群からアポトーシスを起こしているものを自動判別するシステムを構築すべく、八王子キャンパスの教員と共同プロジェクトを計画し、現在進行中である。

 

国内学会では10年連続で筆頭演者として研究発表を毎年行っている。また、卒業研究の学生も積極的に学会で口演発表をしている。

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